石動のブログ

アニメやら特撮やら映画やらの感想を書きます。

『月姫 -A piece of blue glass moon-』 好きなシーンランキングトップ10 前編

月姫 -A piece of blue glass moon- 初回限定版【同梱物】武内崇描き下ろし特装化粧箱 & 設定資料集「月姫マテリアルI -material of blue glass moon-」 - PS4

 どうも、石動です。

 8月26日に発売されてから二週間、不特定多数が見る可能性のある媒体でのネタバレが公式に禁止されていた、月姫リメイク前編『月姫 -A piece of blue glass moon-』。それが本日9月9日、ついにネタバレ禁止期間が終了し、ネタバレ込みで多くの人の月姫リメイクの感想を読めるようになりました。

 そんなわけで、発売日に限定版を受け取りそれから1週間ほど熱中して全シナリオをコンプし、その魅力に取りつかれてしまった僕も、好きなシーンについて語っていこうかなと。最初は総括記事を書くつもりだったのですが、月姫リメイクの圧倒的なボリューム(主にシエルルート)、ビジュアルノベルという媒体故に孕んだ様々な要素について、自分視点で感想をまとめるのに挫折してしまったんですね。でも何も書かないのはあまりに語りたい欲が満たされなさすぎる……どうせなら好きな部分部分だけでも語っていくか……細かいところに語る過程で、作品全体への自分の認識もある程度固まる可能性もあるし……とまあ、そんな次第です。

 というわけで、以下、最高の作品だった『月姫 -A piece of blue glass moon-』の中でも特に好きなシーントップ10について、雑多に語っていきます。ゴリゴリにネタバレしていくので、その辺ご注意ください。また、あくまでお遊び、僕個人のランキングなので、そこんところよろしくお願いします。

 

 

第10位

シエルルート13日目 蜃気楼 「……眼鏡は外さない。」

 教会の代行者であるシエル先輩が、志貴の通う高校の生徒として潜入していた理由。それは、かつて彼女の魂を侵食して吸血鬼としての残虐非道な行為に手を染めさせた挙句、彼女の身体に死ぬことのできない呪いを残した吸血鬼、ロアを追っていたから。彼女は前代のロアとしての力で次のロアの転生先が遠野家の長男だと確信したため、その条件に該当する志貴を身近な場所から観察していたのだった。最初にロアを宿した四季がアルクェイドに殺され、過去の出来事の影響で彼とつながっていた志貴にロアが移動、それに気づいた志貴がシエル先輩に助けを求めた結果、彼を殺すために武装したシエル先輩が現れ、先述の種明かしをした。そんなシーンに続く場面。

 シエル先輩は、志貴との交流は全て彼をロアだと警戒してのもの、全くの嘘だったと言う。彼に見せた「シエル先輩」なんて人物は信頼を得るために作り上げられたものでしかなく、本当の自分は冷酷非道、ロアを消滅させ死ねるようになるためだけに行動する人間だと。そんな彼女の言葉に絶望せず、恨むこともなく、むしろ感謝を述べる志貴の態度が、何度プレイしても胸に刺さるんですよね。

 シエル先輩は嘘だと言うけれど、彼が彼女との交流に救われたのは事実だった。かつて、モノの「死期」が視える魔眼に目覚めて世界に絶望してから、彼が諦めていた日常の風景。生きて、日常を過ごしていくことの楽しさ。シエル先輩が与えてくれたそれらは志貴には本来ありえなかったもので、だからこそ、嘘でも志貴は救われた。

 それに加えて、「今までの自分は全て嘘だ」と冷酷に告げている今のシエル先輩こそが、優しい彼女が自分自身を騙すための嘘であり、彼が見てきた「シエル先輩」こそが彼女の本当の姿なんだと気づく。このシーンだけをランキング入りさせましたが、この前の種明かしの流れ含め、一連の展開が良すぎるんですよね。シエルルート、中盤の前フリと伏線を積み上げるパートが長すぎてダレてしまった部分もあるのですが、シエル先輩の横で幸せに生き、彼女を幸せにするために戦おうと志貴が決意するという、シエル先輩に教えてもらった「生きる」ことの大切さを捨てないまとめ方も込みで、シエル先輩関連の設定と展開はこのシーンで完璧な形でストーリーに取り込まれていたと思います。

 

第9位

共通ルート4日目 火炎血河Ⅰ 「殺人鬼と眼鏡の話。」

 幼い頃に死にかけてから、この世のあらゆるモノが内包する「死期」が線や点の形で視えるようになってしまった志貴。世界なんてものはいつ死んでもおかしくないのだと実感させてくる線と、本来視認なんてできないはずのそれを視ることができてしまう自分自身。それらに彼が絶望していたのはプロローグでもこのシーンでもアルクェイドルートの最終盤でも描写されることなんですけど、そんな彼の視界、視る世界の中に唯一、全くと言っていいほど「死期」を持たず、線も点も映らない生き物が────アルクェイドがいた、というシーンです。

 志貴は、アルクェイドを視界におさめたことで、「死」が見えてしまうような、線をなぞり点を刺突すればあらゆる過程を省いてモノを殺せてしまうような自分でも触れられるものがあると、死の絶望以外のものを与えてくれるものがあるということを実感し、それで救われたんですよね。この展開、派手なものではないのですが、『月姫』しかできない独特さと万人を感動させる普遍的な魅力を併せ持っていて、すごく良い。

 さらに素晴らしいのが、死の線を際立たせる月の光を浴びても「死期」を見せない(吸血種であるため完全体なら夜には「死」の可能性すらない)アルクェイドの姿を見たことへの、志貴の感動が伝わってくる演出力。赤い死線にまみれた背景と純白の光を放つアルクェイドの対比を見事に表現しているイベントCGと、心に染み渡るような穏やかな曲調のBGMがプレイヤーと志貴の心を一体化させ、このシーンの感動を何倍にも増幅させていると思います。

 また、この素晴らしいシーンを最高のクオリティで表現したことが、アルクェイドルートの後の展開にも説得力を与えてくるんですね。志貴がアルクェイドに惹かれた理由は、その純粋さであったり、笑顔の眩しさであったり色々あるとは思うんですが、一番大きかったのはこのシーンでの救われたような感情だったんじゃないかな、と。それがあったからこそ、彼はアルクェイドのために戦う決意をしたんじゃないかな。

 

第8位

シエルルート11日目 後日談。「見慣れた教室」

 ランキングの形式上シーン単位で指定してはいるんですけど、11日目の文章全部がほんと好きなんですよ。ここ数日、志貴の中に意識を段々と移していたロアがついに彼を乗っ取った、という事実が、直接的に語られるのではなく、志貴のセリフや行動、彼の独白たる地の文によって表現されている。上手く言い表せないんですけど、言葉の選び方や人に対する応対が明らかに普段と違うんですね。その変化によって、淡々とこなされていく日常がこれほどにまで恐ろしくなるとは。Fateシリーズに比べてホラー色が強い『月姫』ですが、その中でもトップクラスにホラーとしての完成度が高いシーンだと思います。声自体はちゃんと志貴なのに、明らかに別の人物だとわかる声優さんの演技も必見。

 あと、「後日談。」というタイトルに横線を引くことで、「全部終わって平和になったと思った!? むしろここから壊れてくんですよー!」っていう意地の悪い展開が暗示されてるのも好きです。

 

第7位

シエルルートノーマルエンディング「夜の虹」

 その胸に芽生えた感情故に暴走したアルクェイドとの戦いの末に、もう自分の肉体が保たないと判断し、自分が死んでロアが次の転生先に移動する前に、自らロアと共に「死」へと向かった志貴。しかし、彼の「ロアの呪いから解放され、ノエル先輩に幸せになって欲しい」という願いは果たされたなかった。否、確かに願いは果たされたけども、シエル先輩にとっては自分の幸せは、欲しいものは、志貴が幸せに生きていくことだった。志貴は、彼女のずっと夢見ていた幸せな幻想(実はこの辺りのシーン、いまいち把握できてないです。蘇生した直後の志貴がシエル先輩との学園生活の夢を見ていて、それから覚めることで生き返ったので、彼女の夢、幸せと引き換えに志貴は生き返った、ということでしょうか)から目覚めた直後、自分の命を移し替えて志貴を救った、シエル先輩の綺麗な死相を目にする──。

 いや、もう、切ない。切なすぎる。志貴が命を捨ててシエル先輩を救おうとしたように、シエル先輩も志貴のためなら命は惜しまなかった。自棄になったわけじゃなく、彼の願い通り、幸せを目指した結果が、遠野志貴の蘇生だった。月も沈み、数多の星だけが煌めく夜で、泣き笑いのまま死んでいるシエル先輩の姿が残酷なまでに美しくて…。

 その悲劇的な結末からの、エンドロール後の展開も大好きです。シエル先輩は、自分の幸せのために、自分の欲しいものに忠実になったがために、志貴のための行動をした。それと同じように、志貴も、彼女に幸せを願って命を託されたからには、自らが幸せだと思える道を往く。不可能に見えるけど、確かに正しいと思える、シエル先輩を生き返らせるための道を往く。

 同じく「人間の意味」「永遠」という不可能性に満ちたものを追求し続けたロアが彼に「この世界に起こりえない事はない」「どんな闇の中であっても、虹をかけるくらいはできるでしょう」と助言するのも、マーリオゥらシエル先輩の同僚(?)が彼の生き様に手を貸すのも、不可能だとわかっていても前に進む志貴の姿も、エンディング後の「教えて!シエル先生」で「どんなに待っても虹は出ないンだよ」と切り捨てるのも含めて、『月姫 -A piece of blue grass moon-』という作品の中核にある、一人の人間でありながら世界の理に翻弄される遠野志貴の生き様が最も伝わってくる、素晴らしいエンディングだな、と。

 

第6位

シエルルート14日目 果てずの石 「魔眼、覚醒」

 繰り広げられる、暴走したアルクェイドと志貴の戦い。その末に、肉体を破壊されたことで星の報復機能としての姿を露わにし、巨大な光体へと変化したアルクェイドが、シエルと志貴の思い出の象徴である学校を壊そうと歩き出す。しかし、それは星のシステムとしての権能を逸脱したものであるから、学校に辿り着く前に彼女の身体は自壊し消滅する、お前の勝ちだと志貴の中にいるロアは言うが──。

 シエルルートのトゥルーエンディングへと繋がる流れ、実はロアとの掛け合いがやけに軽妙だったりアルクェイドが暴走こそしてるものの台詞的には志貴にフられてすねてるようにしか見えなかったりで展開に緊張感がなく、でもその割にはやたらと長い間光体アルクェイドとの戦闘が続くので、個人的には「ちょっとグダってるな……」と感じてしまったのですが、14日目ラストのこの展開だけは別。シエルルートでははっきり言って中途半端な態度をアルクェイドに取り続けた志貴が、「俺はアルクェイドを殺したくて戦っているんじゃなくて、シエル先輩を助けるために戦ってたんだ」ということに気付いて消滅に向かう彼女を救うと決意し、ある意味でアルクェイドに数百年にわたる片思いを続けてきたロアを「いいのかよ。俺たちはそろって、アイツに相手にもされてないんだぞ」と煽るのが非常に胸熱で燃えます。

 このシーンだけでなく、「死徒としてアルクェイドの力の一部を取り込んだ」という性質を生かして自分自身を弾にしたロアも、星のシステムたる光体となったアルクェイドの中で志貴がロアの追い求め続けた宇宙の果てを目にする展開も、全てが終わった後にいつものように口喧嘩をして、笑いあって仲直りできた志貴とアルクェイドも、とにかくアルクェイド救済のシーンは全部良かったです。別れの際に志貴が口にした「俺はたぶん、おまえといるとすごく楽しい」「でも、自分の幸せより、先輩の幸せをとったんだ」という言葉も、アルクェイドルートとシエルルートを収録した『月姫 -A piece of blue glass moon-』というゲームの最後のエンディングとして、綺麗に幕を引けてたんじゃないかなと思います。

 

 

長くなりすぎたので後編に続く!

sasa3655.hatenablog.com