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感想『創約 とある魔術の禁書目録』 前に進むことを、諦めるな

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 そうですよ。そうなんですよ。『創約 とある魔術の禁書目録』なんですよ。大好きなシリーズの新たな幕開けとなるお話を、ついに読み終わりました。

 総評としては、「最高だったな!」という感じで、とても楽しめました。前シリーズの『新約』の第一巻というか、序盤の方の出だしはシンプルに最悪だったこともあって、割と禁書って新たな物語の立ち上げがあんま上手くないのかなって印象があったんですけど、今回ので払拭されましたね。旧約と新約、これまでの物語から地続きでありながらも、しっかりと「新たな時代」を描く。新シリーズの一巻として、これ以上ない始まり方だったのではないでしょうか。

 というわけで、ざっくりと序盤・中盤・終盤に分けて、感想を語っていきたいと思います。ここが好き!とか今回はそういったノリの記事になるので、少しでも共感して頂けたら幸いです。

(これ以降、本編のネタバレを含みます)

 

 

勢いが変な方向に突っ走ってた序盤

 まあ、見出し通りなんですけど。言ってしまうと、序盤はあんまりノれないなあ~といった感じで始まってしまったのが正直なところでした。禁書って基本的に細かいところをすっ飛ばした展開やギャグに溢れたシーンが多くて、それが「文章力がない」とか言われたりはするんですけど(個人的にはあえてやってるように見えるからその捉え方はちょっと違う気が…ってなる)、今巻はそのパターンでもあんまり好きになれないパターンだったかなあ、と。

 普通に読みにくいとかどういう状況なのかわからないとかちょっと考え方が悪意的な方向に寄りすぎてあんま共感できなかったとか、色々と原因はあると思うんですが、身も蓋もないことを言ってしまうと、自分は上条さん&インデックス&御坂が三人で遊ぶことになる流れが気に入らなかったのが一番の原因かなあ、というオチですね。上条さんだって(物凄い不幸にあって吹っ切れたからとはいえ)クリスマスにかこつけて女の子二人と遊んでるのに、リア充カップルを引くくらい妬んだりするのは微妙に筋が通ってないのでは、とか細かい部分は置いといても、表紙から想像されるいかにも楽しげでクリスマス回だー、ってなる展開まで行くのが遅すぎたように感じました。要するに、自分はもっとシンプルに上条さんが仲良く楽しく遊ぶ展開を期待していたわけです。そこが思った以上に「真っ当」じゃなかったのでお辛い…となってしまったんでしょう。

 いやまあ、そんな分かりやすくシンプルに上条さんが幸せに突っ込んでいけるとは思ってなかったんですけどね、禁書なので。なんなら表紙の目が死んでたし。でも、僕としてはもっと王道な展開を期待してしまったのです…身勝手だけど…。

 

 

一気にギアが噛み合い、加速した中盤

 とまあそんな感じに物語の序盤はぶーぶー言いながら読んでいたんですけど、やっぱりジャンルは一応異能バトル系(であってる…よね?)、今巻最初の敵である舞殿星見が襲撃をしかけてきてから一気に文章のキレが増してきて良かったですね。かまちーはこういう時の方が脂のってて好きです。

 それに加え、幕間で「窓のないビル」に黄泉川を呼び出し、何かしらおっそろしい計画を実行しようとしていた、的な姿が描かれていた一通さんの真の状況と彼の野望が一気に明らかになる、という流れも非常に綺麗。しかもその真相がめちゃくちゃ「一通さん~〜!!!」ってなる類のやつで、かまちーに完全に感情をコントロールされてる心地がして良かったですね。

 いやだって、「学園都市に長い間寄り添い、最早表裏一体となった暗部を街から切り離し、完全に消滅させる」んですよ。あとがきでかまちーが「新統括理事会長としての絶大な権限を手に入れたら、最初に何がしたい? と考えた時に自然と浮かんだ答えがこれでした」と言ってましたけど、読者のツボを分かりすぎてますよね。ただ罪を抱える重みに耐えかねて楽な方に進んだんじゃなくて、他でもない学園都市のために、彼が一番よく見てきた裏側の世界を消し去る。そのために、例外を作らないために、自分自身が罰を受ける。決して感情に流されず、いっそクレバーに、自分自身の立ち位置に折り合いをつけていく。色んなものを乗り越えて成熟した一通さんのとった行動だから、重みも段違いなわけです。どこか前統括理事長のアレイスターに似ているようで異なる道を進んでいるのもグッとくる。

 そしてその行動の代償として当然発生する学園都市の危機に対して、「俺は、この街を信じる」と彼が言い放つのが、最高に熱くて涙が出てきたなあ。ミスリードの上手さもあって、今巻の一通さんの行動はほぼ「見たいもんが見れた」でありながら新鮮さと衝撃さに彩られてるんですよね。シリーズ初期や新約初期は小説家としてあんま信用できなかったかまちーだけど、こうも上手くキャラクターの魅力を炸裂させられるともう降参です。

 また、同時に勃発した舞殿星見VS上条さんのバトルも最高でした。他の人間に「当たり前」を歪められて、諦めのまま暗部に堕ちて、表向きは普通の生活をしながらもいつ自分が普通じゃないかが他のみんなにバレるか気が気でなかった舞園。ある意味では被害者に甘んじて罪を犯し続けた彼女と、同様に記憶という「当たり前」を他人に奪われ、それでも陽のあたる場所に立っていた上条当麻

「楽になんかならねえだろ」

「みんなで手を取り合って、走り回って。そっちの方が、よっぽど楽だ」

「それがどうしたって言える自分になりたくはないのかよ」

 同じ「当たり前」でも、奪われたモノは違う。それがどれだけ苦しいかなんて、人によって全然違う。だから、上条さんと舞園は別に同じなわけじゃない。でも、同じじゃないからこそ、舞園にだって上条当麻の苦しみはわからなかった。耐えられないだろうと思った。そんなのは嫌だと思った。

 そんなことになって、そんな大切なものを奪われて。それでも彼は「正しく」、「幸せ」であろうとした。それが二人の、決定的な違い。ある意味では初めての理解者を得て、ある意味では自分が間違っていることを正面から叩きつけられて、舞園は上条さんと戦うことになるんですね。この一連の流れが、本当に素晴らしい。

 まずもってここにきて上条さんの過去を生かしてくるのが燃えに燃えるし、後に出てくる黒幕の根丘と合わせて、今巻のテーマを綺麗に浮き彫りにしてくれる。このバトルをきっかけに、前半も後半も見え方がガラリと変わってくるんです。キャラクターの掘り下げとしては勿論、ひとつのお話としてのポジションの置き方もめちゃくちゃ上手い。禁書の魅力のひとつでもある、「価値観の破壊」がここまで化けてくるとは…。

 そんなこんなで、色々と打ちのめされた中盤でした。瞬間最大風速で言うとここらが一番面白かった、と思えてしまうくらいには良かったな…。

 

 

テーマが結実し、お話としても見事に着地する終盤

 真の黒幕を追い詰め、最後の決戦に挑む流れは普通に興奮したけど、色んな要素を動員して、新シリーズの第一巻として、「創約」として、新たなる時代を「創」っていく、という流れを形作っているんです。

・魔術が科学の街ーー学園都市に流入し、これまでの常識が壊れて新たな時代が創られていく展開

・かつて生まれ、人を傷つけた悪意の前に諦めて楽になるのでなく、前に進んで、よりよい世界を創る、という巻全体のテーマ

 具体的に言うと、このふたつの大きな流れがあるんですよね。前者は言うまでまもなくアンナ=シュプレンゲルの策略によるものなんですけど(恐らく創約の序盤はこれによる動乱がメインになるんだと思われる)、後者は一通さんや上条さんが切り開いていったもの、っていうのが良いですよね。暗部を消そうとする一通さん&それを助けるために戦う上条さん達と、それを阻止しようとする舞園&根丘の対比が綺麗に機能してる。

 今回の騒動の黒幕たる根丘は、舞園のような悪意に晒され、傷つき、立ち直れなくなった子ども達の逃げ場所として、暗部を守ろうとしていた。他でもない自分が悪意に晒された過去があるから、それに負けた過去があるから、闇を手放そうとしない。でもそれはきっと諦めで、大切なものを失いながらも前に進んでいった上条当麻の前には無意味なものだった。

 作中で繰り広げられた上記のような展開は舞園達への絶対的な否定なんですけど、暗部を消し去ろうとした張本人である一通さんが、かつてあまりにも大きな罪を背負い、その罪の枷を振り切ろうと一度もがき、何かを見誤って暗部に身を落とし、それでも最後には「正しさ」を取り戻した人間である、という事実がそこに加味されることで、諦めに囚われて多くのものを傷つけてしまった彼らに対する救いが生まれてるのもとても良いフォローになっていて好きです。

 今巻、読者の見守ってきた登場キャラクターの姿が様々な役割を果たしていていいなあってなるのが多いですね。大きなテーマが一本筋通っていて、要素がすっきりまとまってるからかな? 感想はとても書きやすくて助かりますたね()。

 

 

 

 というわけで、感想でした。いつにも増してごちゃっとしてますね。ひどい。でも、書きたいことは大体書けたので非常に満足です。次の巻も楽しみに待ちましょう!

 

 

 

 

 

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