石動のブログ

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『新約 とある魔術の禁書目録 22 リバース』に頭をぶん殴られた話

新約 とある魔術の禁書目録(22) リバース (電撃文庫)
sasa3655.hatenablog.com

 先日、上の記事で新約禁書についての不満をぶちまけた。自分でも書いてる内によくわからないテンションになっていったし、今読み返すと「ちょっと言い過ぎかな」とも思わないでもないが、書いたことに後悔はしていない。それで頭の中が空っぽになり、読むことに集中できたというのもあるが、一番の理由としては、記事の中での僕の主張の中に、今回の『新約 とある魔術の禁書目録 22 リバース』の内容と深く関連するものがあったからだ。

 勿論、直接的なものではない。ラノベとかにありがちなハーレム展開の是非を話の題材にした禁書でも、流石にキャラ同士のカップリングについて皮肉ったりはしない…と思う。僕の叫びの裏にあった、前提条件とでも言うような認識。それこそが、記事タイトルにある「頭をぶん殴られた」ということなのだ。この記事では、その衝撃について、存分に語っていきたいと思う。




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 結論から言おう。僕の抱いていた「認識」、今巻の感想の大部分を占めるそれは、「上条さんの記憶について」。『上条さん』と『前条さん』という、2つの呼称のことである。『前条さん』は旧約1巻で記憶を失う前の上条当麻、『上条さん』は記憶を失ってからの上条当麻を指しているのだが、要するに、昨日までの僕は、一人の人間を記憶のあるなしで区別していたのだ。

 なんでそんなことをしていたかというと、上条当麻という人間は、記憶を失う前後で、全く異なっているように見えたからである。読者の多くが知っている『上条さん』は、毎度の如く事件に遭遇し、または首を突っ込み、戦って敵に説教をし、最後にはみんなまとめて幸せにするような、完璧超人とは言わないにしても、ある程度の狂人というか、少なくとも一般人ではなさそうなオーラがあり、旧約1巻に登場した『前条さん』は、どこか自嘲的で、突然の訪問にあたふたする小萌先生に苛立ち、自分の無力さを嘆いて、インデックスに恋をするような、少なくとも『上条さん』よりは普通の男子高校生らしい性格だと思っていた。

 その認識は『上条さん』が様々な苦難を乗り越えて仙人の如き鋼のメンタルを手に入れたり、新約11巻で『前条さん』が再登場し、彼には救えなかった人が何人かいたことが判明したことによって、ますます強くなっていった。例の記事で「たとえ前条さんと上条さんが異なる性格であり」なんて言ってしまうくらいには、それを強く信じ込んでしまっていたのである。友人にも「前条さん好きなんだよねー人間らしくてー」みたいなこと言ってた。今巻を読み終えてから振り返ると、実に恥ずかしい。

(いや実際、あれだけの年数分の記憶があるかどうかでは、そりゃ少しばかり性格や人格に影響は出てくるだろう。普通の人だってそうだ。しかし、その変化はあくまでその人物であり続ける範疇で起こるものであり、「別人」と言ってしまえるほどのものではないのだ、と今はそう思える。しかし残念なことに、かつての僕は『上条さん』と『前条さん』を全くの別人として捉えていたのだった。)



 今巻では、様々な視点を内包し、キャラクター達の物語が交差しまくる、新約21・22巻のような雑エンタメな作風ではなく、一本の軸として「上条当麻」にピントを絞った展開を行っている。その最たるものが、「2人の上条当麻」の登場だ。

 物語冒頭、ウィンザー城でのパーティーの様子が描写される。可愛く、そして美しく着飾られ緊張する3人のヒロイン、近衛次女達とのキレッキレの掛け合い、何かの偶然で食蜂のことを覚えている上条さん、インデックスと上条さんの決断と、とにかくサービス精神旺盛なシーンばかりで、正直に言うと、この始まり方が前巻のラストと全く繋がってないことも忘れて、僕はこの展開を楽しんでいた。なんというか、「見たいものが見れた!」とでも言うような。特に最後のやつのダメージは大きく、そのまま昇天しそうになっていた。

 しかし、しばらくして、物語に決定的な破綻が訪れる。ウィンザー城を謎のドラゴンが襲い、上条さんに襲いかかったのだ。応戦する上条さん幻想殺しによって外殻を破壊された中から現れたのは、パーティー会場にいたのとは別の、「上条当麻」だった…。

 そこからの怒涛の展開。ドラゴンじゃない方の上条さんは全ての記憶──本来の上条さんがどう頑張っても思い出すことができない食蜂についての記憶も含めて──があることを主張して食蜂を味方につけ、その能力によりその場にいたほぼ全員が戦闘不能に陥る。全てを奪われた(ドラゴンの方の)上条さんは御坂に助けられ、もう一人の自分を倒すことを決意する。その一方で、全ての記憶を失っていない上条さんは、はっきりと食蜂の名を読んだ。

 ここでまず、「やられたー!」と思った。物語の最序盤にて発生し、そして旧約22巻で解決した(ように見えていた)上条さんの記憶喪失を利用し、正真正銘、「もう一人の上条当麻」を、「過去の記憶を持った上条当麻」を登場させる。この展開そのものが「前条さん」という言葉を使っていた(上条当麻を記憶のあるなしで分けていた)僕に相当のダメージを食らわせてくれた。食蜂の過去も絡めてくるのも、それまでに読者が上条さんだと思っていた方が「記憶のある方」だった、という種明かしによって衝撃の強さをグレードアップさせているのも、アンナの「記憶のあるなしが人を分けるなんてありえない」というセリフで追い打ちをかけてくるのも、本当に見事である。



幻想殺し

幻想殺し

 ただし、今巻の1番素晴らしいところは、その「2人の上条当麻」を、ただ僕のような読者への当てつけのように悪意的に描くのでなく、「上条当麻とは誰なのか」というテーマに見事に着地させていることだ。

 終盤、戦いの中で、記憶を失っていない上条さんは、元々の(読者の知っている)上条さんの「自分に記憶があれば、インデックスをもっと幸せにできたかもしれない。右腕をもっと上手く使えたかもしれない」という願いを受けて、右腕の中身──『神浄の討魔』と呼ばれる存在?──が「記憶を失う前の上条当麻」を再現したことによって生まれた存在であることが判明する。その役目を果たすために、彼は戦っていた。つまり、上条さんも僕と同じように、過去の自分を別のものであるかのように見ていたのだ。自分なんかよりもよっぽど強くて、よっぽど万能な英雄の姿を、無意識の内に幻想し、願っていた。

 しかし、現実はどうだったか。記憶を失っていない上条さんはもう一人の乱入により食蜂を利用せざるを得なくなり、さらにその扱いに失敗してインデックスと御坂を暴走させた上に食蜂の身を危険に晒した。その全てを間違いと断定せず(「記憶があればもっと上手くできる」という願いから生まれたため、「ダメだった」なんて言えない)、口からでまかせを言って飄々と戦うその姿は痛々しくもあった。簡単な答えだ。記憶があったって、上条当麻は変わらない。





 だから、上条当麻は対峙する。自分の甘えと逃げと幻想が生み出したモノを前にして、自分の救おうとしていた世界を壊したモノを前にして、2人は叫ぶ。
「「俺は!! テメェが許せないッッッ!!!!!!」」
 そこにいたのは、2人の怪物。かたやスカイブルーとレモンイエロー、かたやショッキングピンクにエメラルドを身に宿した、『上条当麻』だった。

 結局、勝利を収め、インデックスを抱きとめたのは、記憶を失った上条さんだったが、その心に、その信念に差はなかったように思う。もし二人の間に差があるとしたら、記憶の有無でなく、これまでの長い物語──戦いや仲間達との日常、多くの誓いが、それにより生まれたグラデーションのような微妙な変化が、上条さんに最後の最後で『羽』を弾かせたのだ。きっとその「物語」の中には、彼に倒されたもう一人の上条当麻のことも含まれているのだろう。




 そして、物語は終わっていく。各々の帰るべき場所に戻っていく。例外なく、上条さんとインデックスも。ただ、これから先の2人を見つめる僕の目は、上条さんの心は、少しだけ前と違っているのだろう。記憶の有無なんて関係ない。大切なもののために、誰かを守るために拳を握る。それが、上条当麻だ。『前条さん』と『上条さん』なんて呼称を分ける必要はないし、過去の自分のことを思って憂うこともない。今思えば、答えなんて、とっくに出ていたのだ。白い少女が、幻想殺しの少年を赦した時に。
「そんなの、もう、どうでも良いよ。いつものとうまが帰って来てくれたら、何でも良いよ」
















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